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2016年11月11日 (金)

「アンクルトムの小屋」とトランプ大統領のアメリカ①

今年を振り返るにはまだ早いが、
2016年私にとって最も価値ある読書は間違いなく「アンクル・トムの小屋」の再読だったと思う。

小学生のころに読んだ時には全く気づきもしなかったが(児童用は読みやすくするために、大幅にカットされている)、完訳を読み進めて行くうちに、今回のトランプ大統領を生んだアメリカは、奴隷解放・南北戦争が起った150年前から地続きにあることを思い知らされる。「アンクル・トムの小屋」や「風とともに去りぬ」で描かれた世界の中に、2016年の今が、まるで透かしのように見え隠れしていることに改めて驚く。(添付の地図参照)

「(前略)私には国もありません。しかし、私は自分の国を持つつもりです。『あなた』の国に望むのは、私を放っておいて無事に脱出させてくれること、ただそれだけです。カナダへ着けば、カナダの法律が私を認め保護してくれるでしょう。それが私の国であり、そうした国の法律なら、私も従うつもりです。(中略)私は息の根が止るまで、自分の自由のために闘います。あなた方がおっしゃっている通り、あなた方の建国の父祖はそうやって闘いました。彼らにそうすることが正しかったとすれば、私にだって正しいはずです!」(「新訳アンクル・トムの小屋」 ハリエット・ビーチャー・ストウ著 小林憲二監訳 明石書店)

たとえばこの一節だけにでも、今に通じる幾重もの問いが埋め込まれている。
(その時も希望はカナダだったんだねというのは置いておいても・・笑)

ワタクシはかなり疑り深い性格なので、自分が読んでいた「アンクル・トムの小屋」(「少年少女世界の文学・アメリカ編」・小学館)と他のものがどんなに違うかを、何冊かAmazonで買って原作と合わせて読み比べてみた。
あらまあ、出だしからまちまち・・。
よく見ればたいていの「アンクル・トム」はストウは「原作」で、「文」は別の人が書いている。つまりは「原作」とはかなり違ってて当たり前なのだが。

完訳を読んで思ったのは
「奴隷解放」がメインテーマで、アンクル・トムが主人公とばかり思っていたこの物語が、実はどうして、ストウが書きたかったのは、人権やエスニシティの問題もさることながら、別のことだったのではないか、ということだった。
つまりは、能力があるなしにかかわらず「白人男性」という「下駄」を履いているが故に逆に「浅はか」となるどうしようもない人、そして、例えば所有者と奴隷という絶対的上下関係がありながらも、その奴隷情婦に支配されてしまったりする、圧倒的権力を持った側の倒錯。それこそが彼女が描きたかったリアリティなのだと思う。
心良き人はそれゆえに経営手腕はなく、結果的に自分が大切にしている奴隷を売るという最悪の結果をもたらしてしまう。富を得るのは吝嗇で、人を人とも思わない、また自分の「生まれながらの優位性」を信じて疑わない人だ。

「たまたま」以外の理由がないのに、人為的に作られたこの「生まれながらの優位性」を、アメリカは建国の歴史の中利用してきたとも言える。
誰から見ても分かりやすい区分とするために、肌の色と性別を「下駄」=既得権益として固定化していく。
「下駄」を失った場合でも、被差別者を売り、危険に晒すことで自らの地位は保全される。
この「劣化した優位」をストウは容赦なく書く。
そして登場させるのは絶対的救済としての母性=男性不在で誕生したキリストである。そう言う意味ではフェミニズムの萌芽も見て取れるのだが、ビクトリア朝時代の価値観の中では分厚い天井からは空は見えない。雨漏りしていたとしても。

公民権運動の高まりとともに、「アンクル・トム」は白人に取り入る情けない黒人の代名詞として使われるようになり、作品自体の評価も下がったと聞くが、今日、再評価がされているというのは、なるほどもうひとつ深いところに手を突っ込んでいることが、理解されて来たということなのだろう。

「『アンクル・トムの小屋』を読む」(高野フミ編・彩流社)はその透かしをフェミニズムからジャーナリズムまで「アンクル・トム」を巡っての社会変容の歴史的意義を現代に引き寄せながら分析することで、よりはっきりとした構造にし提示することに成功している。
「新訳アンクル・トムの小屋」(ハリエット・ビーチャー・ストウ著 小林憲二監訳 明石書店)の巻末には小林氏の「『アンクル・トムの小屋』の再評価と位置づけ」と佐藤宏子氏の「父権の喪失ーハリエット・ビーチャー・ストウとその家族」が解説として付されているが、これまたかなり読み応えがある。

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